Cold Phantom [前編]

その日から私は病院から出られなかった。
私が知らないうちに誰かに迷惑をかけてしまっているんじゃないか、あの時の先生みたいに私が人に危害を加えてしまうのではないかと心配になった。
落ち着いた今もまだ遠慮してしまいがちだ。

「…。」
-違わ…ないッスよ。そう、その通りッス。俺は先輩の事が好きだ。-
私の心中にヒロ君の言葉がリピートされる。
好きだ、なんて言われた事が無かった。
こんな私にも好きと言ってくれるヒロ君に私は申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
でも、恋人になると言う事は友達でいる事とは訳が違う。
もっと親密な仲になると言う事に、私自身に恐怖していた。
記憶喪失が忌々しい、私が目を覚まして以来背負った私のハンディキャップ…それがいつも人を阻害してきた。
そんな私が昔から嫌いだった。

雨の降る道をひたすら走っていた。
何に逃げているのか解らないのに私は逃げる様に走った。
ヒロ君は追ってこなかった。