Cold Phantom [前編]

「先輩からで良いッスよ。」
「良いの?」
「大した内容じゃないんで、先輩からで。」
言いながら俺は先輩の言葉を待った。
「私も大した事じゃないんだけどね、せっかくだから観覧車に乗らない?」
「あ、同じ事考えてたみたいッスね。」
「そうなの?」
キョトンとした表情で先輩は見ていた。

テーマパークに観覧車があるって言うのは正直珍しい。
でも俺としては必要な物だったと今は思う。
ベタベタな恋愛ドラマでもこんな展開は古すぎて使わないかも知れない。
でも実際に起こってみると、これ程のチャンスはないんだと強く思った。
先輩と二人きりのまま上へ上へと上がり続ける個室の中で俺は落ち着かない時間を過ごした。
いや過ごしたと言うには大げさだろう、まだ入って2・3分しかたっていない。
なのに俺からすると「分」を「時間」に訂正しても良いくらいの時がたったように思えた。
その最たる理由は…
「…」
「…」
不自然なくらい重い空気だった。