Cold Phantom [前編]

スロープの上のアーケードに雨から守られながら俺達は立ち尽くした。
さっきまで降っていなかったのが嘘の様に今は土砂降りになっていて、とてもアーケードから出られる状況になかった。
これだけの雨にも関わらず、観覧車のスロープには人は居なかった。
たまに観覧車から人が現れるが不人気なのか、家族連れとカップルの二組しかそこから出てこなかった。
「酷い雨ッスね…。」
俺はアーケードからの排水の勢いの凄さを見ながらそう言った。
本当はもっと気の聞いた事を言いたかったが、今のが精一杯だった。
鼓動が少し早くなった。
たった二人きりの状況がずっと続いている。
チャンスだった。
いつかこうなるのを待ちに待っていたが、思わぬタイミングに心の準備が何一つ出来ていなかった。
落ち着いているつもりなのに視線が泳いでしまっている。
時間は既に4時半になろうとしていた。
集合時間は5時、もう時間がなかった。
俺は焦る気持ちのまま先輩に視線を向ける。
「?」
俺はその時先輩がこちらに視線を慌てた様に外したのが見えた。