Cold Phantom [前編]

「降らないね…」
未だに降らない雨雲を見上げた先輩はポツリとそう言った。
「出来ればこのまま降らないで欲しいもんッスね。」
俺も先輩にそう言うと、先輩はこちらに視線を向けて言った。
「そだね。このまま晴れ間が見えてくれたらもっと遊べるのにね。でも…」
先輩はそこまで言って言葉を止めた。
「あ…。」
しばらくして俺は声を上げた。
頬を叩く冷たい大粒の水滴が願い通りに行かなかったのを物語った。
「降ってきたッスね。どこか雨をしのがないと…。」
勢いをつけ始めた雨の中、俺は慌てながら周りを見て回る。
そんな中…
「…。」
先輩はただ黙って棒立ちしていた。
「先輩?」
「え、あっ…。」
先輩は今しがた目を覚ましたかの様な反応をする。
こんな非常事態に似つかわしくない反応に何だか心配になる。
「ごめん、何だか今日はぼーっとしっぱなしだね。せっかくヒロ君が案内してくれてるのにね。」
先輩はそう微笑みながら返してきた。