Cold Phantom [前編]

「あ、そうそう忘れてた。二人とも、私の事は店長じゃなくてマスターって呼んでね。」
「あ、はい。」
失礼、マスターが店の奥からゆっくり現れた。
「美咲、ちょっと良い?」
「買い出し?」
「まだ何も言ってないんだけど…」
「この時間のこのタイミング、今までの経験上買い出しくらいしか想像出来ないんだけど。」
「…さすが美咲、悔しいけど大当たり。」
言いながら人差し指で頬を掻いた。
美咲先輩が店の手伝いをする様になったのは小学校高学年の頃かららしく、もう少しで7年目になるらしい。
高校生になってからはアルバイトとして働いているようで、ある意味この店の事のほとんどの要領を得ている裏の店長…と本人は言っていた。
マスターもそれを分かっている様で美咲を信頼している風にも見える。
ただ…
「えぇ!?またこんなにっ!私を倒れさせたいの!?」
「ほら、文句言わない。明日から男の子が入るんだからそれまでの我慢。」
「…」
奥から声が響いた。
祥子先輩曰く、仕事を知っているからこそのマスターの重要なパシリと化しているようだ。