Cold Phantom [前編]

そんな会話が奥で繰り広げられると、私はその会話に小さく微笑んだ。
気づけば常連さん全員も小さな笑いを浮かべていた。
閉店時間の9時も30分前に押しかかった今の時間帯、みーちゃんが買い物に出ていくと同時に常連さんもそれに続く様に店を出ていく。
ラストオーダーも終了し店からお客さんが見えなくなった頃、私が食器を片付けているのを見計らった様にマスターが話しかけてきた。
「どうしたの祥子ちゃん?ボーッとしちゃって。」
「え?」
「ボーッとしてると言うか、考え事してない?」
「考え事…ですか?」
そう返して不思議がると、マスターは先ず私の手元を指差しこう言った。
「そのお皿、どれだけ念入りに洗うつもり?」
「…あっ。」
言われて私は既に綺麗になった皿を二度三度続けて洗っていたことに気付いた。