Cold Phantom [前編]

苦くも香しいエスプレッソの香りがするスチームを吹くコーヒーメーカーは仕上げの細かいクリームを吐き出し私はそれを溢さない様に満遍なく全体にのせていく。
それを二つ分作りトレーにのせて待っていると、程なくしてみーちゃんがやってくる。
今日はいつもよりゆっくりしていた。
お客さんも疎らで片手指で数えられる程しかいなかった。
「ふぅ…。」
私はその楽だけど暇な仕事場を眺めながら小さく息を吐いた。
「暇だなぁ…とか思ってるんじゃないの?祥子ちゃん。」
そんな言葉が奥の厨房から聞こえた。
「えっ、店長?」
私はそう返して厨房に続く扉に振り向いた。
すると、少しだけ扉が開きその店長…
「こらっ、いつも言ってるでしょう。マスターと呼びなさいって。」
失礼…そのマスターが小さく開いた扉の隙間から顔を出してそう言ってきた。