相変わらず記憶は戻っていない様だったが、記憶のぶり返しが原因なのか、怖がっていたのが伺えた。
いつも何かに怯えた様子で診察が終わる事が多かったが、今日はその非ではなかった。
「ふぅ…」
俺はデスクチェアの腰掛けに体重を乗せて伸びをした。
壁掛け時計を見ると既に12時を少し回っていた。
「ご苦労様です。長池先生。」
ふと、俺を呼ぶ声に人を探した。
隣の部屋から看護師の姿が現れた。
「姫納さんの診察ですか?」
「あぁ、今日はちょっと色々あってな。」
「何かあったんですか?」
「ちょっとな…。」
俺は事の次第を語らずにいた。
「でも、脳波に関する診察なんて多分長池先生以外にはやらないんじゃないですか?」
「確かに異例ではあるな。」
「まぁ、SFサスペンスな感じがして私は好きですけどね。」
「ドラマの様に解決出来れば幕切れとして格好いいけどな。」
「あ、その…すいません。」
「いや、別に責めた訳じゃない。気にしないでくれ。」
そう言って俺はパソコンの横にあるお茶を飲み干した。