Cold Phantom [前編]


(俺は、本当に俺なのか?)

「ヒロ君?」
「え?」
先輩に呼ばれて気がついた。
不意に昔の事を思い出してしまった。
いけないとばかりに頭を振ると、狙ってたかの様に先輩は聞いてきた。
「ボーッとしてたよ。」
「すいません、何か話してたッスか?何も聞いてなかったんで。」
「心配無いよ、ヒロ君がいきなり無口になっちゃったからどうしたんだろうって思っただけ。」
先輩に心配されていたくらいだから本当に無口になっていたようだ。
「ちょっと、昔の事を思い出しただけッス。」
「昔?」
「そう、ずっと昔の事ッス。」
そう言って、俺は立ち上がり伸びをした。
女の子一人の部屋だ。長居は流石に気が引ける。
「帰るの?」
先輩はそう言って俺を見上げた。
俺はその先輩の視線を合わせた時、少し時間が止まった…。
「先輩…」
「ん?」
「あの、そんな顔されると…俺、動けないッスよ。」
「え?」
先輩は気付いていないようだが、俺はその先輩の表情に戸惑った。
行かないでと言わんばかりの不安げな表情に俺はその場を動けずにいた。