Cold Phantom [前編]

「はい。親父に頼みこんで買って貰ったッス。」
そう言ってヒロ君は腰の辺りまでケースを持ち上げ自慢気に見せてくる。
自慢気になれるのも当たり前だろう。
Bakhはプロも御用達の名門メーカー。
アマチュアで自前で持っている人はこの地域だと少ないと思う。
それも学生で持っているとなると…
「本当に音楽が好きなんだね。」
私はそう言わざるを得なかった。
「まぁ、そのお陰で高校に上がったらアルバイトして返してくれって言われたりで、今からが大変だったりするッスよ。」
そう言いながらも大事に抱えたケースを見るたびに笑顔を見せた。
あの無邪気な笑顔を…。
「中々良い雰囲気じゃないかぁ…えぇ、猿よ。」
そこで茶化す様に話しに入りこんできたたけ君。
たけ君には申し訳無いけど、たけ君の事を少しだけ忘れていた。
「な、何だよ。」
「入学早々もう『女の子作りました。』みたいな勢いじゃないか。しかも、三年生の先輩をだな…。」
「ちょっ、ちげぇよ。先生も言ってただろ。昨日クラブ発表会で同じく倒れて、成り行きで…あれ?」
「ん?…どした?」
途中で話を止めたヒロ君にたけ君が茶化す表情を真顔に変えヒロ君に聞いた。