ネオン

「純君とぶつかった日が、初めて歌舞伎に来た日だよ。」


「そうなんだぁ~。

・・・彼氏、いんの?」


「居ないよ。」


「なんで?」


「いらないの。」


「いらないって?」


「いい人が居れば・・・って思うけど。今は忙しいし。仕事が。」


「そんなに頑張ってるの?」


「そうだね。でも今はもうお金とかじゃない。プライドに近い。」


あたしはいつの間にか思っている事を素直に口にし始めていた。


「でも辛いときもある。

 誰かに頼りたいって。

 恋人が居ればいいとも思うけど、きっと迷惑をかけちゃうから。」



「そう・・・。」



純君は真面目な顔であたしの話を聞いていた。



「ごめんね、なんか暗くなっちゃった。」


「・・・ねぇ、良かったら、連絡先教えて?」



あたしは一瞬悩んだ。



あたしもお客さんには必ず連絡先を聞く。


営業の為に。


お金の為に。



ホストとキャバ嬢、


やってることはみんな同じ。



「・・・ごめん。」


「なんで?」


「色恋とか、めんどくさいんだ。正直。」


「営業じゃないよ?」



あたしは鼻で笑った。


「あたしもその言葉、お客さんに言う。


そういう勘繰りとか、プライベートでもしたいと思えなくて・・・ごめんね。」


「そぅ・・・。」


純君は餌をもらえない犬のような顔をしている。


「あはは。キャンディみたい。」


「キャンディ?」


「うちの犬。めっちゃ可愛いんだ。」




純君は八重歯を見せて笑っていた。