「何にも覚えてないの?」


「うん。でもね、ほんとに幸せだった」


そう言うと、ほんとに幸せそうな顔をした。


しばらく歩いていると。


「あっ、待って」


菜々が突然声を上げた。


「どうした?」


「ヒール、はまちゃった」


「えっ?」


菜々の足元を見ると、右足のヒールがほんの数センチしか開いていない溝にはまっていた。


「ぷっ・・・あはは」


「笑わないでよ」


俺は思わず、声を出して笑ってしまった。


菜々は顔を真っ赤にしながら、必死でヒールを取ろうとしている。


「待って」