バシュッ



金属の擦れ合う様な

強い風の音がした


神力を持つ誰かがやってきたのだ





翠はその音を聞き、この場所を去ろうと後ろを向いた


まだ誰とも話したくない気分だった





『君は…翠さんだね。』


ふと名前を呼ばれ、その聞き慣れない低い優しい声に返事をして思わず振り返った


『はい。』


振り返った瞬間





風が吹き二人の間に桜の花びらが舞った






翠とその声の持ち主はお互いを見て一瞬時が止まった様な感覚がした








そして


その声の持ち主は優しく微笑んだ




何もかも包み込み様なそれでいて品のあるその笑みで翠は何故かは分からないが久しぶりの安堵感を覚えた




『私は雅臣。君の事を礼奈さんから伺っていたよ。』


雅臣という男性は黒い束帯、つまり天皇が祭事の時に着るような衣装を身にまとっていた


束帯を着ているということはかなりの高い地位にある者だとすぐに分かった