「相手はこの前ホテル行く前にお金をもらったやつ」

みずほは私の部屋着を着てから、ドライヤーで髪の毛を乾かす手を止めて静かに話しはじめた。


「この前はそれで逃げた。鈍いやつだったからホテルの前まで来て自分から先に扉をくぐろうとしてくれたおかげでとっとと逃げれた」


「もらったお金は?」


「ニ万五千円だよ。新宿で欲しかった服買った」


「たったのニ万五千円?」


17歳女子高校生、という肩書きはブランドにならないのだろうか。詳しくは知らないけれど求められて需要あるものだとばかり思っていた。


「不景気だから。
それに最初から体売る気なかったから頑張って値下げしてあげたんだよ」


彼女は顔にかかる髪の毛を束ねてくるくると指に巻いた。
どうしようもない女のプライドみたいなのが垣間見えてその安易な強がりに意地悪な気持ちが少しだけ芽生えた。




「それにしても安いよ。普通にバイトしてた方が良かったのに」


「そうしたらこんなことにならなかったもんね」


「そう、平穏だった」



膝を抱えこんだ彼女を見てつい先ほどまで走っていた自分の足のことを思い出した。

靭帯切ってから私の足は厳しい運動を制限するようになった。ビリビリとする痛みが全身に走った時のことを思い出すと今でも身震いが起きる。
気持ち悪くて仕方ない日々を半年も過ごした。
おかげで筋肉は落ちて足はただの棒になった。

良かったことは焼けた肌が白くなったこと。


そのくらいだった。






「それから、暫く経ってからメールアドレスも変えてまた掲示板に書き込みしたんだ。
一分も経たない内に30通くらい来るから直ぐに掲示板から書き込みを消して、その中から目星を探したの」


彼女の利用する掲示板とは友達募集を謌った出会い系の掲示板のことだった。
それは実況中継みたいなリアルタイムで全国のあちこちから5分も経たない内に連絡がくるようなどうしようもない代物で、彼女は度々その全国から女子高生というワードにつられてやってくる大量のメールを見ては相手が添付してきた写真を笑いのネタにしていた。