ドレスから顔をあげると、きょろきょろと辺りを見回し、誰かにむかって手招き。
すると、駆け寄って来たのは……
「どしたん?蔦さん」
やっぱり櫂。
つまり、この女のひとは櫂のお母さん……デザイナーの『朝比奈蔦』ってことか。
……美人さんだなぁ。
「どうしたもこうしたもあらへんわ。あんたもうちょい考えて作れや」
「……何がやねん?」
櫂が首をかしげると、蔦さんは私のドレスを指差し、
「初恋のコの晴れ舞台なんやから、もうちょっとぐらい気のきいたデザインなかったんかい」
きっぱりと言い放つ。
だけど櫂が怒る様子はまったくなく、むしろあっけらかんと笑って見せた。
「ええやん、シンプルなほうが。ウェディングドレスなんやし」
すると、その笑顔を見て、蔦さんも少し口端をあげる。
「……言うようになったもんやなぁ、櫂」
「え……うおッ!!?」
そして櫂のみぞおちに、思いきり拳をふるった。
痛さから、体を折りたたみうずくまる櫂。
それを見て蔦さんはにこりと笑った。


