ガラリ。
薄暗い実践室のドアを開ける。



「失礼します。福永です。」

「…入れ。」




先生以外、他にいないのか
私は辺りをぐるりと見渡しながら奥へと進む。




「何か用でしょうか。」

「…別に。」



結城雅章 23歳。
数学教師。


ニヤリと笑い私を見つめる。





「結城、呼び出しとかヤメテよね」

「別、いいじゃん。スリルあるだろ。」




こいこい、と手招きする結城に
溜息を吐きながらその招きに応じる。



ゆっくりと結城の近くまで行くと、ぎゅっと腕を掴まれ引っ張られた。




ボス。
先生の胸にダイブ。



「結城、クビになるよ」

「バレなきゃ平気。」




私は必死に冷静を装った。
ドキドキする心臓を落ち着かせ
先生を見上げる。




「…ん?」




表情を変えず、私を見つめる結城。
ぜんっぜんドキドキしてない顔。




それはそっか。
好きなのは…私だけだもん。



先生にとって私はただの暇つぶし。




「…沙紀」

「!」



先生はズルイ。
こうやって私を…虜にする。




ちゅっと触れる唇に
私は何だか悲しくなった。


幸せなはずなのに、凄く悲しかった。





「もう時間、じゃあね」

「…もう、んな時間かよ」




私は顔を背け、
先生の腕の中から抜け出す。


唇に残った先生の感覚。












「…っ」


実践室を飛び出した瞬間
私の頬を涙が伝った。





自分から言い出したはずなのに
こんなにも辛くなるなんて。