マジックストーン


 梨海ちゃんにビンタされた頬をさすっていれば、さっきの一部始終を見ていただろう女の子達が。

「七瀬さん調子乗り過ぎじゃない?」

「神崎先輩にビンタして『最低』はありえなくない?」

「てか、どっちが最低だよ、みたいな」

 ちらほらと沸き上がる梨海ちゃんへの非難の声。

 まあ、一部始終を見てたからって、どうして梨海ちゃんが怒ったかなんて分かんないだろうに。

 やっぱ、女の子って怖いねぇ。

「言っとくけど。梨海ちゃんは悪くない。てか、俺に非があったから叩かれた。 もしかして、いじめようなんて考えてないよねぇ?そこの子」

「………あたし?」

「そう、君」

 梨海ちゃんよりも、ずっとキツい髪の色をしていて、それプラス厚化粧の髪の毛くるんくるんのギャルに指を差した。

 別に慌てる素振りもなく、一瞬頬を赤らめた彼女は、俺の腕に片手を伸ばしそれを撫でる。

「うふ。神崎せんぱあいっ。アタシはねぇ?七瀬梨海だけじゃなくて、椎葉優衣も一緒にシメちゃおっかなあって」

「………どうして?」

 一瞬。殴りたい衝動に駆られたけど、啓輔みたいに俺は短気じゃない。

 それに、王子様的存在を維持したいからねぇ。

 だから、それらをぐっと飲み込んで出した声は、少しばかり低かったかも。