「優衣ちゃんのご両親はね、ココにあまり帰ってこないから」
「お仕事、ですか?差し支えなければ……」
「お父さんはチェリスト、お母さんはバイオリニストなの」
ケーキを見ながら呟いた私の声は、少し淋しさを含んでいたかもしれない。
含んでいたかも、じゃないかな。
実際、たまに帰ってきても聞くことはピアノピアノで、私のことなんて一切興味がないみたいだし。
「……ヨーロッパを転々としてるから、忙しいんです。
時々、帰って来ますけどココに1時間……いや、30分もいませんから」
紅茶入れてくるね、と席を立った私は、唇を噛み締めていた。
今は、泣きたくない。
だって、泣いたら彩織ちゃんに失礼だもの。
私を気遣って、住み込みでお世話してくれてるんだから。
ティーポットを持って席に戻れば、ケーキよりも甘い笑みを浮かべる神崎先輩と目が合った。
「お父さんとお母さんは、オーケストラにでも所属してるの?」
「え……。あ、はい。同じオーケストラに」
「今度聞きたいな。お父さんとお母さんの演奏」
お父さんとお母さんの話から、私の話になることがいつものパターンだったから。
私が何の楽器をやってるかとか、どのコンクールに出たとか、得意な曲とか。
聞かれると思って、何度も口の中で呟いて練習してたのに。
そのどれも聞かないなんて。

