一心不乱に、何度も何度も、いつもより多く弾き直す。
「……いちゃっ!優衣ちゃんっ!!」
ぎゅっと後ろから抱きしめられた。
鳴り響ていた音が止み、彩織ちゃんの嗚咽が響く。
「いいよっ!いいのよっ……。優衣ちゃんは、そのままでいいのよっ。
……お願いだから、泣きながら弾かないでっ」
「……っ。だ、だって、上手にならなくちゃっ。お母さんに怒られちゃう……。恥をかかせちゃうっ」
泣きながら弾いていたつもりはなかったのに。
彩織ちゃんに抱きしめ、止められて、気づいたら涙が溢れていて。
ピアノは好きなのに。
私は、大好きなピアノで誰かと競わなきゃいけなくて、そして、勝たなくちゃいけなくて。
小さい頃から色々なコンクールに出て、賞が取れないとお母さんに怒鳴られた。
「好きなときに好きなだけ、好きな曲を弾いてる優衣ちゃんが好きよ?だから、無理しないで」
穏やかな声で、小さな子供をあやすかのような優しさは、私を眠りに誘うのに充分過ぎて。
しだいに重くなる瞼を、必死に持ち上げた。

