どうしてそんな瞳で神崎先輩を見るの?また、梨海ちゃん神崎先輩のこと嫌いになっちゃったのかな……?
「……仕方ないわ。優衣の“彼氏”だから言うけど、あの子……舞希、記憶が欠けてるのよ」
ふっと遠い目をした梨海ちゃんは、長くて細い脚と腕を組んだ。
「それは記憶喪失ってこと? ……5年アメリカに行ってたのは、それが関係してるみたいだね。 それで?何の記憶が欠けてるの?」
「これだから頭の回転のはやい男は……はあ。欠けているのは小学6年の一瞬。一瞬だったけど、舞希にとってアメリカに一時移住するくらい重大のことだったのよ」
「舞希のお兄さんの昔のことなら、知ってると思うけど」と色々と掻い摘んで話す梨海ちゃん。
舞希ちゃんが階段から落とされてその時の記憶がないこと。それの所為で、舞希ちゃんが人前で泣かなくなったこと。
黙って聞いていた神崎先輩。話し終わった一時の沈黙の中、
「優衣も梨海ちゃんもつらかったんだね」
神崎先輩がひとりごとの様に静かに呟いた一言は、私の心に温かく広がった。
私、つらかったのかな?つらい、より悲しいの方が強いのかな。だって、舞希ちゃん、私と梨海ちゃんの前で泣かなくなったから。

