言う気でいた。なのに、神崎先輩の温もりが離れていく。邪魔されたの。彩織ちゃんに。
そりゃあ、私のお家の玄関から半径3メートルくらいで抱き合ってたんだから、仕方ないんだけど。
「祥也くんったら久しぶりなんだからっ。ほらほら、そんなとこに立ってないで、早く上がって?」
お気に入りのピンクのエプロン姿の彩織ちゃんは、お花みたいに上品に笑う。
「彩織さんお久しぶりです。上がってお話ししたいんですが、これから野暮用があって……すみません。また、来ます」
そんな彩織ちゃんの笑顔を上回る笑顔の神崎先輩は、軽く会釈をした後、私の頭を撫でて背中を向けた。
大きな背中が小さく見えなくなるまで、それを見つめていた。
神崎先輩はずっと……半年くらいこうやって私のこと見ててくれてたのかな。
「優衣ちゃん祥也くんのこと好きなのね」
後ろから優しい声が聞こえてくる。私は振り返らずに、小さく頷いた。
「好きになっちゃった……」
蚊の泣く様な私の声は彩織ちゃんに聞こえなかった、と思う。

