「ちげーよ」
泣きだしそうな私の目の前に顔を出した岩佐先輩は、ぐしゃぐしゃと私の髪の毛を掻き回した。
「椎葉は知らねえと思うけど……まあ、言うなって言われたけどどうせ分かることだし。言っても平気だろ。てか、椎葉が知らねえフリすりゃいい」
勝手にぺらぺらしゃべっといて人任せなんですかっ?!
「あいつ、椎葉と知り合ってちょいくらいまで毎日のように女遊びにふけてたんだよ」
ああああ。しゃべっちゃってるし。私、ウソつくのとか下手くそだって知らないんですかっ?!
「そんな男がピタリと女遊びをやめた。何でだと思う」
ひょこりと壁の角から顔を覗かせれば、岩佐先輩がちょうど紫煙を吐き出しているところだった。
女遊びって……あ、神崎先輩に初めて(廊下でわざとぶつかった時だって言ってたから、2回目なんだろうけど)会ったときに誘われた、アレ?
「何でって言われても……。遊びたくなくなったからじゃないんですか?」
紫煙の先を見つめる岩佐先輩の隣に静かに座った私もそれを見つめてみる。
相変わらず雲はゆったりと空を歩いている。
「分かんねぇの?」
「だって――」
「――椎葉優衣。お前の所為だ。良い意味で、な」
不意に私を見て笑った岩佐先輩は、欲しかったオモチャを手に入れた子どもみたいな笑顔だった。

