「そんなこと優衣ちゃんに言っても無駄だって一番よく知ってるんじゃない?」
ねえ梨海ちゃんっ、と語尾に星が飛びそうなほど弾んだ声の神崎先輩は、腕の中に閉じ込めていた私をくるりと半回転させた。
見上げれば物凄く優しい笑顔。
ゆっくりと私の髪の毛を上から下にその長い指を落としていく。
「この間は帰ってごめんね? 勘違いしないでほしい。俺、優衣ちゃんのピアノは好きなんだ」
「……え?」
「楽しそうにピアノを弾く優衣ちゃんもそのピアノの音色も大好き」
大きな手のひらはほっぺを包む。
「だから、また聞きたい。 でもね?それは優衣ちゃんがまたピアノを好きって思えるようになった時でいいから。 また聞かせてほしい」
「……神崎先輩……」
「優衣ちゃんの好きなピアノは優衣ちゃんにしか出来ない。 ――ピアノと恋しちゃいなよ」
こ、い………?
「恋ってさ、好きって時は近づいて好き好きって。嫌いな時には離れて。ピアノもそれでいいんじゃない?」
ぽんぽんと私の頭を撫でた神崎先輩は、
「好きで好きで仕方ないからこうやって抱きしめたり、チューしたくなるんだよね」
形の良い唇を私の額に押しつけた。

