「やっぱ知ってるよね。高村花音は有名だから」
すっと目を細めた神崎先輩はそれ以上何も言わなかった。ただ、一言「ここは無理だから梨海ちゃん家に泊まろうね」と優しい声音で言っただけ。
私を起き上がらせてから、立ち上がった神崎先輩は「喉渇いたよね」とキッチンに向かった。
そんな後ろ姿に「そういえば」と口を開いたのは私。
「神崎先輩のご家族って……」
「父さん母さん俺だよ」
「先輩も一人っ子なんですね」
「……ああ、うん」
いつもいつも、優衣ちゃん優衣ちゃん! とにこにこしながら、今日はねーっ、とその日のことを話してくれる神崎先輩。でも、やっぱり神崎先輩自身のことを聞く機会はない。というか、聞く隙がない。
チャンスとばかりに「お母さんのおかげでリビングが綺麗なんですね」と私にとって羨ましい質問をした。
私のお母さんがお家の掃除をするなんて――今までもこれからもないだろうなあ……。
吐息に近いため息の後、「住んでないよ」別に普通だよ、って言われた気がした。
「ここは学校から近いからたまに俺が寝泊まりしてるんだ。だから、そんなに生活用品はないと思うんだよね」
自炊はめんどうだからね、と乾いた笑い声がキッチンに響く。

