とりあえず駅前のカフェでケーキを奢るだけで済んだ私はほっと胸を撫で下ろす。
彩織ちゃんにも謝らなくちゃ。何か甘いものでも買ってお家に帰――
「……汗臭いけど許して」
ふわりと前から抱き寄せられた私は胸の前で携帯を握り締めている。
どうしてあの日帰ったんですか?
聞きたくても聞けなくて。怖くて。でも聞きたくて。私はじっと微動だにせず神崎先輩の着ているTシャツを見つめていた。
神崎先輩……私、苦しいです。大好きなピアノが弾けないし、全然上達しないし……。
それに、なんだかいつもよりずっと、胸の辺りが苦しいんです……。
「優衣ちゃん」優しい声音であたしの名前を呼んだ神崎先輩は「さあ、帰ろうか」と私の頭を撫でた。
「………い」
「優衣ちゃん?」
「……帰りたくない」
ぎゅっとTシャツを握って俯く私は視界が霞んでる。
帰ったとしてもピアノが弾けない。それに私のお家には音が染み込みすぎて――
「………はぁあああっ?!」
いきなり叫んだ神崎先輩は、私の目線に合わせて屈んだ。

