「……ピアノなんて」
――嫌い
そう言えればどんなに楽か。それでも言えない私は弱虫。
ピアノから離れたくなった私は、早朝、置き手紙を残して家を出た。
目的を決めずにとにかく自然に聞こえてくる音を探し求めた私。公園に行ったり、人通りが少ない所に行ったり。
ピアノから逃げられるならどこでも良かったの。
たまに自転車に乗った男の子とすれ違うくらいだった私はここ――夏祭りがあった神社にたどり着いた。
出店も赤提灯も何もなくなってしまった神社の前はしんとして淋しそう。
「わあー」とか「きゃー」とか。たまに遠くに聞こえる子どもの声と、近くで鳴き通すセミに耳を傾けた。
遠くで聞こえる声がぱたりと止むとなんだか不安になる。でも、再びそれが鼓膜を揺らすと嬉しくて。
思わず頬が緩んでしま――
「オヒサシブリ」
――っ?!
がばっと後ろを振り返れば、色の明るいダメージジーンズに薄ピンクのTシャツの男のひ――わっ!
「ふ、不信者っ!!」
叫んだ私はずざざっと後ろに下がり、お決まり“ヤー”のポーズ。

