不意に、涙を拭ってあげていたあたしの手首を歩夢が掴んだ。
かと思えば、すぐに放して立ち上がる。
自分で涙を拭ってから、何かを決心したようにケータイを取り出して。
「仁先輩、俺の家に運ばなきゃっスね。
芽咲に説明して手伝ってもらうから外で電話してくる」
説明って……。
「歩夢、待って」
くるりと背中を向けられたところで思わず呼び止めると、
「あ、ここで電話しろってのは、なしっスよ」
まだ涙目のまま笑みをつくって振り返る。
「また泣くかもだし、かっこ悪いとこ、みくるに見られたくないっスから」
つくり笑い。
だけど、あたしには確かに優しい笑顔に見えた。
強いね、歩夢は。
「…わかった。
あたし、ちょっと仁の様子見てくるね」
「りょーかいっス。じゃっ」
片手を挙げて外へ出ていくのを見送ってから。
大丈夫、大丈夫。
呪文みたいに心の中で唱えながら、自分の部屋に向かった。


