倒れていたとは言え、まだ意識があることを知って、ひと安心。
ほのかな瞳は何かを訴えかけているように見える。
だけど、口を利くことでさえツラそうで。
「何も言わなくていいから」
注意を促すと、素直に口を閉ざした。
あたしは笑みを浮かべて、ふと思い出した言葉を並べる。
「よし、いい子だ」
初めて仁に会った時、言われたセリフ。
今回は、あたしが言う。
「みくるー!
むやみに出て行ったら危ないっスよ」
そんな大声で人の名前を呼ぶほうが、よっぽど危ない気がするけど。
さっきの女の子、あたしのこと知ってそうだし。
「歩夢、運ぶの手伝って」
息を切らして駆け寄ってくる歩夢に焦点を合わせる。
「え?運ぶってどこに?」
「あたしの家」
「あ、はい。……えぇっ!?」
あんまり驚いた言い方をするから。
「家に誰もいないから大丈夫だよ」
「…そっスか」
付け加えると、躊躇いがちにも歩夢は仁の腕を自分の肩に回した。


