どこか遠くを見ていたその女の子は、視線に気づいたのかこちらへ顔を向けた。
……お人形さんみたい。
その綺麗な顔立ちに、つい視線を外せなくなる。
アキちゃんみたいな大和撫子、っていうよりは、童顔で。
どこかのお嬢様みたいな。
考え込んでると、無表情だった彼女は口元に笑みを浮かべる。
それから、ゆっくり、唇だけを動かして、
『き・さ・き・み・く・る』
え?
確かに今、あたしの名前を───
「待って!」
背を向けて立ち去ろうとするのを、引き止めようと声をあげるけど。
「待ってってば!」
立ち止まる気配がない。
考えるより先に体が動いて。
気づいた時にはあたしは外の世界に飛び込んでいた。
息を整えつつ周りを見渡すものの、誰か人がいる気配はない。
あの角を曲がったの?
姿を見失うってことは、どこかで曲がったか周辺の家に入ったかだけだ。


