駆け寄って

『待たせちゃってごめんね』

そう言おうとしたあたしの足は、止まって駆け寄ることもできなくて。





気づけば、自分の足元に肩にかけていたバックが落ちてた。



ほら、よくドラマとかであるじゃん。


衝撃的場面を目撃して、力が抜けて、手に持ってたものを落としちゃう感じの。


まさに、それだと思う。







「好き、なの」



翼の近くで、

翼の温もりに包まれて、

静かに呟いたのは、あたしなんかじゃない。





「初めて見た時から…っ…」


震える声。

泣いてる、のかな。



その場にいたら、なんだかあたしまで涙が出そうで。


動けないくらい驚いてたはずなのに、勝手に体が後退していく。





目の前には、泣いてるアキちゃんと、アキちゃんの頭に手をおいて慰める翼の姿。


翼の服をぎゅっと握るアキちゃんを、すごく羨ましく思った。