「香織…香織!!」
「悠也…っ」

急いで香織の家に向かうと、玄関前に二人の人影があった。
香織の顔は青ざめていて、走ってきた俺の顔を、涙のたまった瞳で見た。

「大丈夫か…?
なにかされたか?」

抱き締めながら聞くと、香織は首をふった。

「て…手紙、が」
「…ああ…聞いた」

抱き締める力を強くしながら、俺たちの目の前で香織の携帯を開いたり閉じたりしている黒ずくめを睨んだ。

その視線に気付いたのか、黒ずくめが携帯から意識をはずした。

「…睨まれてましても。私が死ぬ人を決めているわけじゃないのですから。」
「…」
「いいじゃないですか、好きな人と供に逝けるなんて…しかも、一番美しいときに」
「…ふざけんな!」

この男、絶対殺す!
何考えてんだよこいつ!死ぬなんて良いわけないだろ!!

一層強く睨み付けると、香織が弱々しく俺を呼んだ。

「…悠也」
「…なんだ、香織」
「うん…あのね」

香織は俺から少し体を離し、俺の顔を見て言った。

「…そうだよね」
「?」
「…私、悠也と一緒になら…死んでもいいよ。むしろ、嬉しい。」
「な…!!」

嘘だろ!?
何言ってんだ香織!

香織の言葉を聞いて俺は完全にパニクった。

その後の事は、よく覚えていない。

ただ…そこには
絶望があった。