「北条先生か、美人だけど・・・・」

また、メールの着信音がした。茜は今度はあわててマナーモードに切り替えた。
操作が慣れない携帯は茜の意思に反して、いっそう音が大きくなり、おねえちゃんはとがめるようにこちらをみた。

「そこの緑のニットのあなた」

茜は肩をすくめて手を上げた。

「学籍番号とお名前は?」

「・・・・・国文科 学籍番号057672 大内 茜です」

「国文科の大内さんね」

おねえちゃんは黒革の表紙のファイルを開いて、さらさらとメモを取った。

「出ておいきなさい」

ぱたんとファイルを閉じて静かにドアを指差した。
茜はその場に固まったまま、呆然とおねえちゃんを見つめていた。

「国文科なのに日本語がわからないの?でしたら英語で申し上げましょうか?」

茜は凍りついたように立ち尽くし、まばたきを繰り返した。
ロングラッシュのマスカラが濃く塗り重ねられたまつげが微風を起こすほど。
茜の小さな身じろぎとも震えともつかない動きで、ルーズリーフの上に無造作に置かれていたシャープペンがコロコロと机の下に落ち、階段型の座席から教壇に向かって転がっていった。

一番後ろのあたしたちの席からまるでおねえちゃんに吸い寄せられるように、止まることなく一直線に転がっていく。