あたしはベッドから起き上がるとだらしなく下ろされたデニムのファスナーをあげた。

ちらり、とおねえちゃんをみるときれいにそろえた足を左側に流して背筋をぴんと伸ばしていた。

「房江の大学の講師に行くことになったの」

「は~?国文科で臨床心理学の講師が何の必要があるのよ?」

「一般教養の授業で1コマ持たせていただくことになったのよ」

「ふーん、ねずみの研究結果でも講義するわけ」

「マウスは心理学の実験に使用するのよ。心理学を専攻している学生さんだったらかかわ
りはあるけれど、文学部の一般教養ならもっと入り口の部分について講義することになると思うわ」

「結局、あたしの1人暮らしとどんな関係があるわけ?」

「期限は決まっているとはいえ、他大学の講師だから今使っている研究室からマウスたちを運び出さなければならないの。お母様がねずみ嫌いだがらこの家にマウスたちを連れてくるわけにはいかないし、私もどこか部屋を借りようとしてたから」

「おねえちゃんと一緒の家に住むだけじゃなくて、ねずみの大群もついてくるの?」

「大群だなんて、たった30匹よ」

「冗談じゃないわよ。あたしは自立したかったの」

「お家賃のことは心配しなくていいの。房枝には干渉しないし、私も1人暮らしを体験してみたかったから、房枝は私をルームメイトだと思っていればいいの」