《恵Side》

俺,まじで恋の話とかしたことねぇし。

特に初恋のこととか,人に話すの嫌だったんだけど。

コイツ等なら教えてもいいかなって思えたんだ。

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俺の初恋は,無謀だった。

だって相手は,年上だったから。

しかも彼氏もち。

その彼氏とは,


俺の兄貴のコトだった。


あれは,俺がまだ10歳のとき。

俺の兄貴・心(シン)16歳には可愛い彼女が出来た。

名前は羽鳥 鈴奈(ハトリ レナ)

ショートカットが良く似合うしっかり者の鈴奈は,幼かった俺を可愛がってくれた。

俺は鈴奈の笑顔が好きだった。

『好きだ』

って告白もしたけど

『私も恵クンのこと好きだよー★心の弟だし,可愛いもん』

答えはいつもこう。

俺は,『男』として全く相手にされなかった。

すごく悔しかったけど,あの頃の俺にはどうすることも出来なかった。


ある日,学校から帰ると久しぶりに鈴奈が家に遊びに来てた。

兄貴の部屋で,何か話し合っているようだった。

ドアに耳をあてると,鈴奈の声で『ほかに好きな人ができたの』と言っているのが聞こえた。

ドアを少し開けて覗くと,兄貴が鈴奈の頬を殴る瞬間を…ちょうど見てしまった。


鈴奈は泣きながら『ごめんなさい』と繰り返していた。

兄貴は,低くて小さい声で『出てけよ…』と言った。


部屋から出てくる鈴奈と目が合った。

鈴奈は俺に微笑んだ。

その目は,『ばいばい,恵クン』と言っていた。

最後に見た鈴奈は,俺が大好きな笑顔とは正反対の泣き顔だった。

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「はい,オシマイ」

と,俺は話を終わらせた。