「やっぱり安西さんって本好きなんだ。よかったぁ、こっちの学校にも気の合う子がいて。はいこれ。返すのいつでもいいよ」
美姫は本を私の自転車のカゴに入れ、背景に花が咲いていれば丁度似合うような笑顔を浮かべ、走り去った。
雨に濡れて少しよれた袋を手に取り、眺めてみる。これを投げ捨てようとする気など、今では全く起こらなかった。ごめんね。ちいさく呟いてみる。美姫ちゃんごめんね。風馬も、美姫ちゃんのおばさんも、この本も、ごめんね。
逆恨みして、勝手に苛立って。風馬は誰のものでもないし、美姫ちゃんもアンデルセンも、何にも悪くないのに。
「最低や……」
私は主人公には絶対なれない。
自分を好きになれない人は、他人も好きになれないと言う人がいる。
それなら私は、風馬を好きになる資格すらないのだろうか。
