私はそれだけ言って、そそくさと立ち上がった。この人が嫌いなわけではなかったが、やっぱり他所の家に長居をするのは居心地が悪かったのだ。
……これは建前で、本音を言うと、いじめられている所を助けもせずに傍観している私が美姫の母親と顔を合わせ世間話に興じるのは、やっぱり変だと思ったからだった。
自転車を押し道路に出ると、ちょうど玄関から死角になっている所に、美姫がいた。
もちろん驚いたけれど、心のどこかでこうなることを予測していた気もした。だから私は、割と冷静だった。
けれど美姫は違ったようで、目薬を点したように潤んでいる目を一杯に見開き、びっしょり濡れて水が滴っている閉じられたピンクの傘をことんと落とした。
それでももう片方の手に抱えた、茶色い藁半紙の袋は、しっかりと抱えたままだった。
私はその袋をよく知っていた。呆けている美姫より先に、私が口を開く。
「花沢さんやろ?」
……これは建前で、本音を言うと、いじめられている所を助けもせずに傍観している私が美姫の母親と顔を合わせ世間話に興じるのは、やっぱり変だと思ったからだった。
自転車を押し道路に出ると、ちょうど玄関から死角になっている所に、美姫がいた。
もちろん驚いたけれど、心のどこかでこうなることを予測していた気もした。だから私は、割と冷静だった。
けれど美姫は違ったようで、目薬を点したように潤んでいる目を一杯に見開き、びっしょり濡れて水が滴っている閉じられたピンクの傘をことんと落とした。
それでももう片方の手に抱えた、茶色い藁半紙の袋は、しっかりと抱えたままだった。
私はその袋をよく知っていた。呆けている美姫より先に、私が口を開く。
「花沢さんやろ?」
