えんどう豆のゆくえ

 本の世界でしか、まともに生きられない気がしていた。

 本の登場人物はみんないい人で、誰かを妬んだり、うとんだり、いじめたりしない。いつでも会いたい時にそこにいてくれるし、絶対私を裏切らない。

 だから私は、何かというと本を読む子になっていた。この時もそう。

 美姫の寂しげな姿が見たくなくて、風馬の美姫を心配する声が聞きたくなくて、本の中に避難した。いろんな感情に押し流されないように。
 
 美姫が極限まで俯いて泣いていることなんて、私以外誰も気付いていなかっただろう。
 それに唯一気付いていた私も、気付いていないかのように振舞った。
 


 だから誰も、あのとき美姫がどれだけ辛かったかなんて知らない。