杖縁邸は一見すると万全の警備を施されているように見える。

どこまでも続く塀に頑丈な門。

それ以外の場所から出入りすれば、確実に梓によって感づかれる。

彼女は気配の変化に敏感だ。

侵入者が強引な手段を用いて入り込めば、その空気の変化を即座に察知する。

しかし。

『通用口』から『堂々と』入り込むという行為には案外油断するものらしい。

…こうして買い物帰りの杖縁家の執事、二ノ宮の帰宅の隙を狙って門から侵入しても、梓は全く気づいていないようだった。

気づいていれば、この広大な敷地をすっぽり覆いつくすほどの強烈な殺気を放つ筈だから。

要は、正面から侵入する手段が必要だった訳である

入り込んでしまえばもう用はない。

僕は首根っこを掴んだままの二ノ宮を地面に投げ捨てる。

…彼も杖縁家に仕える有能な執事である以上、平均以上の戦闘力を持つ亜吸血種なのだが、野須平の狗である僕には今一歩届かなかったようだ。

ドチャッと。

湿った肉の音を立てて、二ノ宮は地面に屍を横たえた。