漆塗りの肘掛けに寄りかかり、煙管を吹かしながら流し目を送る母。

こういう所はちっとも変わっていない。

実の息子だろうと男ならば色気を振り撒く。

こういう母親だからこそ、僕は女の扱いが上手くなったのかもしれない。

「当主様…この度はどういったご用件で…」

母親であろうと、僕は彼女を『当主』と呼ぶ。

僕が自らの境遇…野須平という亜吸血種の名門だと知った時から、母は僕の母親ではなくなった。

彼女は名門亜吸血種の当主。

そして僕は当主に仕える優秀な『狗』。

野須平の敵を屠る為、僕はこれまでに何度も『狗』として、この身を闘争に捧げてきた。

それは己の為ではなく、家系の為。

ここに至るまで、僕は自分の為に亜吸血種の力を使った事はなかった。