野須平の正統な血統の者でありながら、僕が本家に訪れるのは久し振りの事だった。

…案内されてやたらと広い和風建築の屋敷の廊下を五分ばかり歩き、やっと辿り着いた障子に閉ざされた部屋。

「こちらで当主様がお待ちです」

着物姿の女性がそう告げて、役目を終えたのか静々と廊下を去っていく。

「……」

僕はネクタイを締め直し、一つ息を吐いてから障子を開けた。

「失礼します。誠、只今戻りました」

「…入んな」

艶っぽい声が聞こえて、僕は障子に閉ざされた部屋へと足を踏み入れる。

…畳敷きの、宴会でも出来そうなほどの広い部屋。

その部屋の端…屏風の前に、分厚い座布団に足を崩して座る女性の姿があった。

白い肩を露わにした、はしたない着物の着方をした女性。

熟女、という言い方がしっくり来る。

彼女の名は野須平しとね。

野須平家の現当主であり、僕の母親だった。