座り心地が良すぎて眠りを誘う高級車のシートで居眠りを始める頃、不快な振動など一度も感じさせる事なく、車は渡蘭市郊外の高級住宅街…その中でも一際敷地面積の広い大邸宅の門を潜った。

杖縁邸。

サッカーと野球とラグビーが同時に試合を出来そうなほどのふざけた敷地を持つこの屋敷に、梓は執事とたった二人だけで住んでいるのだという。

両親はいないのだそうだ。

過去にこの街で起きた、『楽園』の覇権を巡る亜吸血種同士の抗争で命を落としたのだという。

以来彼女はこの街を一人で取り仕切ってきた。

杖縁家の当主として。

名門亜吸血種の末裔として。

「降りて」

車の中で服を着替えた梓は、運転手…執事も兼任しているらしい…がドアを開ける前に後部座席から降り、俺を促す。

…やれやれだ。

俺は溜息をつきながら車を降りる。

「ようこそ杖縁家へ。よくおいで下さいました」

事情を聞かされていないのだろうか。

自らの主を敗北させて陵辱した俺に対し、執事が恭しく頭を下げた。