腹がいっぱいになる頃。

「……」

ふと、顔を上げる。

…生温かい風に乗って漂ってくる臭い。

血の臭いだ。

しかもまだ新しい。

どこかで闘争があったらしい。

いや、この強烈な血の臭いから察するに…誰かが誰かに一方的に暴虐の限りを尽くされ、果てただけかもしれない。

どこにいっても『同類』は存在するという事か。

…俺は半分ほど腰を上げ。

「……」

やめた。

今は腹も満足している。

特に苛立ちもない。

誰かも知らない連中の闘争に首を突っ込む必要もないし、またそういう気分でもない。

しばらくはこの街に居座る事になるのだ。

何も最初の夜から血生臭い出来事に関与する事もないだろう。

…しゃがみ込んだまま、夜空を見上げた。

「いい月だ」