そこで私はようやく気づいた。

彼の…武羅人の放つ殺気が、とてつもない威圧感をまとっている事に。

「な…に…これ…」

その圧迫感に、私はまともに言葉を紡げなくなる。

信じられない。

猫を威圧する鼠はいない。

虎を圧倒する小鹿はいない。

なのに何なの?

雑種の亜吸血種が、名門杖縁の令嬢である私を竦ませるほどの殺気を放つなんて…!

こんな殺気は感じた事がない。

「こんな無名の亜吸血種なんて遭遇した事がないわ…!」

「へぇ、そうかい」

武羅人の愉悦の薄笑みが、快楽の嘲笑に変わった。

獲物を食い殺す肉食獣の眼。

標的を蹂躙する捕食者の眼。

そしてこの場で、獲物であり標的なのは、あろう事かこの私だった。