本来ならば勝ち誇る場面だ。

私を足蹴にしたまま、命乞いさせて優越感に浸り、思うような返答がなければ命を奪う。

生殺与奪の権利を手中に収めるというのは、えもいわれぬ快感を得られるものだ。

そんな至福の一時だというのに、彼女の眼は地べたに這い蹲る無様な私ではなく、暗がりの更に奥…闇の中へと注がれていた。

…傷つき、疲弊しきった私にもわかる。

闇の中に、何者かが潜んでいた。

死力を尽くした私と梓の闘争。

その闘争の隙に、こんな近くにまで接近を許してしまっていたのだ。

如何に私が梓に意識を向けていたとはいえ。

如何に梓が私に気をとられていたとはいえ。

亜吸血種の鋭敏な感覚を以ってしても気づかせないほどの、見事な気配の殺し方。

そこから導き出される結論。

闇の中に潜んでいるのは、ただの人間ではなかった。

人外。

恐らくは私や梓と同じ亜吸血種だ。