梓に背負われたまま、離れた部屋の前を通る。

「…武羅人…?」

梓と武羅人が待機させられていた部屋。

そこに既に武羅人の姿はなかった。

代わりに壁一面に大きな血文字。

『この街は飽きた。別の喧嘩相手を探してくる』。

自らの血なのか誰かの血なのかはわからないが、そんな書き置きを残し、武羅人は行方をくらましてしまっていた。

どこまでも奔放で自由を愛する、『エゴ』の塊のようなケダモノ。

彼らしいといえば彼らしい。

「いいの?儚様。あいつを好きにさせて」

梓が肩越しに私の顔を見る。

「ええ…構いません」

私は微笑んだ。

「束縛して彼の逆鱗に触れない限り、武羅人は永遠に私の狗でいてくれる筈です…」