けれど、梓は土壇場で恭順の意思を示した。

完全に私を追い詰めていながら、私にとどめを刺す事はしなかった。

…彼女の内で、どんな心境の変化があったのかは知らない。

だけど、私はあの時確かに敗北と死を受け入れる覚悟が出来ていた。

あれ程憎悪し、あれ程屈服させた事に悦楽を感じていた梓に裏切られ、それでもあっさりと敗北を認める事ができた。

私も私の内面はよくわからない。

ただ…。

私はずっと前から…そう、こんな風に闘争が激化するずっと前から、杖縁梓という亜吸血種に憧憬の念を抱いていたのかもしれない。

礼儀正しく知的で優雅な雰囲気を持つ美少女。

高貴で、誇り高く、戦闘能力も一級で、非の打ち所のない名門の令嬢。

彼女を『吸血』せずに屈服させたかったのも、心の底では穢したくないという思いがあったからかもしれない。

私にとっての憧れ。

その憧れに、最後の最後で殺されるのならば、それもよしかと。

そんな風に許容できたからこそ、私は敗北を受け止められたのかもしれない。