「こんばんは、儚」

薄笑みを浮かべて杖縁梓が言う。

彼女は学園では私の事をファーストネームでは呼ばない。

杖縁梓が…梓が私を下の名前で呼ぶのはこういう時だけ。

本来の自分の顔…亜吸血種としての本性を見せる時だけだ。

「昼間は『お友達』を紹介してくれて有り難う。楽しませてもらったわ」

にこやかに告げる梓。

しかしその表情とは裏腹に、空気が張り詰めていく。

ピシッ、ピシッと。

空気がひび割れていく音が聞こえてくるようだった。

梓の、杖縁家きっての天才と言われる亜吸血種の放つ強烈な殺気が、空間そのものを侵蝕する。

「楽しんで頂けました?私はあの虜達に陵辱した挙句、肉片残らず貪り食ってあげなさいって命じたんですけど…」

私は不敵な笑みを浮かべる。

「物足りなくはありませんでした?」

「……」

その言葉で梓の表情が消えた。

能面のような無表情に凍りつく顔。

そのまま告げる。

「ええ…だからその分を貴女に請求しようと思ってね」