だが…。

生憎と今夜の獲物は人間ではなかった。

そもそも私は祖先と同じ行為はするものの、『それ』を生命維持の為の行為とは定義していない。

『それ』をしなくても、普通の人間と同じように経口からの食事で栄養は摂取できる。

『それ』はあくまで私の能力の一つ。

昼間、杖縁梓を襲った虜を作り出す時のような、そういう為の能力でしかない。

今夜の獲物もそれに気づいて、先刻から私を尾行しているのだろうから。

「流石に嗅ぎつけるのが早かったですね」

私は暗がりの中で立ち止まり、ゆっくりと振り向く。

…私の背後。

暗闇よりもなお漆黒の黒髪を揺らし、一人の美少女が立っていた。

杖縁梓。

琉羽爾亜学園の生徒会長。

学園きっての才媛が、こんな夜更けに歓楽街の暗がりをうろついているなど、誉められた話ではなかった。