拍子抜けしたのは事実だけど、それはこの際どうでもいい。

さっき弾けたのは、紛れもなく野須平しとねの気配。

ついに本性を見せたという訳か…。

彼女が狡猾で強かな雌狐だと思ったら大間違いだ。

あれは雌狐ではなく、交尾の際に雄を食い殺す雌の蟷螂。

快楽と殺戮を同一に考えている狂った牝。

亜吸血種は皆その傾向があるけれど、野須平しとねはそれが顕著だった。

「儚のところに行く。ついて来い」

武羅人が部屋を走り出ようとして。

「………!」

その足を止めた。

…部屋の入り口。

二つの湯呑みを盆に置いた給仕が立っていた。

「お茶をお持ち致しました…」