ユラリと立ち上がる。

一気に間合いを詰めた訳でもないのに、儚はアタフタと立ち上がって体勢を整えていた。

可愛いじゃないのさ。

当主だ出碧家の再興だと騒いじゃいるが、この子も所詮はただの娘って事かい。

「あ…貴女は…!」

震える声で儚が言う。

「楽園を牛耳る為に…野須平をこの渡蘭市の頂点に据える為に…」

「同じ話の繰り返しは御免だね」

興を削がれる。

私はうんざりしたように溜息をついた。

「こんなちっぽけな街を押さえたからって何になるのさ?この街のどこに、一体それほどの価値があるんだい?」

逆に問い返すと、儚は口を噤んだ。

覇業、掌握、統一、支配。

そんな事に一体何の意味がある。

そうする事で、亜吸血種にとって一番大切なものが失われる事にも気づかないで。

馬鹿どもめ。